地球惑星科学専攻(地球物理学分野)・准教授 重 尚一

 
 
 

現在、日米を中心とした国際協力の下、降水を高精度・高頻度で観測する全球降水観測計画(GPM; Global Precipitation Measurement)が運用されている(図1)。我々は、日本が開発したGPM主衛星搭載の二周波降水レーダによる降水3次元観測データを活用し、主衛星ならびに副衛星群に搭載されているマイクロ波放射計からの降雨量推定アルゴリズムを開発している。
 

かつてマイクロ波放射計アルゴリズムはアジア沿岸山岳域の地形性降雨を過小に推定していた。受動型センサであるマイクロ波放射計からの降雨量推定は、「x + y = 5を満たす整数(x, y)の組み合わせを1つ答えよ。」というような不適切(ill-posed)問題を解くことに等しい(特に陸上においては)。この例では、「x − y = 1」という条件が加われば答えが(3,2)と決まる。降雨量推定でこの条件に相当するのが、降水過程と密接な関係を持つ降水雲の鉛直構造である。従来のアルゴリズムが陸上で大量の氷粒子を伴う「冷たい雨」の過程が支配的な背の高い降水雲の鉛直構造を仮定していたのに対し、アジア沿岸山岳域の地形性降雨は活発な水粒子の衝突・併合過程(「暖かい雨」の過程)を伴う背の低い降水雲によってもたらされていた。この事が過小推定の原因であったため、我々は、「暖かい雨」の過程を活発化させる地形性上昇流に応じて降水雲の鉛直構造を切り替える手法を開発し、アジア域の沿岸山岳域での降雨量推定を大幅に改善することに成功した。
 

この手法は宇宙航空研究開発機構が準リアルタイムで配信している衛星全球降水マップ(GSMaP;Global Satellite Mapping of Precipitation)(図2)に導入されている。現在、GSMaPは、地上観測が十分ではない東南アジア諸国の気象局において防災のために現業利用される等、開発開始当初の予想を超えて利用が広がっている。

図1 全球降水観測計画(GPM)の主衛星と副衛星群[画像NASA/GSFC提供]
 
2 衛星全球降水マップ(GSMaP)による2018年7月豪雨時の72時間(2018年7月5日10:00から8日9:59)積算雨量[画像 宇宙航空研究開発機構 提供]