物理学・宇宙物理学専攻・教授 中家 剛

 
 
 

2015年、素粒子「ニュートリノ」が脚光を浴びた。「ニュートリノ振動の発見」で、梶田隆章さん(東大宇宙線研所長)がノーベル物理学賞を受賞したのである。梶田さんとスーパーカミオカンデ実験グループ(図1参照)は、大気中でできたニュートリノが振動していることを1998年に発見した。神岡のニュートリノ実験では、2002年の小柴氏に続く、2つ目のノーベル賞である。梶田さんと私はニュートリノ実験の共同研究者で、非常に嬉しいニュースであった。さらに、ノーベル賞に続き、基礎物理学ブレークスルー賞(https://breakthroughprize.org/Laureates/1)が「ニュートリノ振動の研究」に授与され、梶田さん、元京大理学部教授の西川公一郎さんを始め、我々の実験グループ(K2K/T2K実験)もその栄冠を受けた。

 
図1:スーパーカミオカンデ実験の測定器の写真(写真提供:東京大学宇宙線研究所・神岡宇宙素粒子研究施設)。

「ニュートリノ振動」とは、ニュートリノの種類が飛行中に変化する(正確に言うと、ある種類のニュートリノの存在確率が時間とともに振動する)現象である。ニュートリノ振動は、ニュートリノに質量があって起こるので、「ニュートリノの質量」を発見したことになる。一般の人にも分かるように、ニュートリノ振動を漫画で説明したページが http://higgstan.com/2015/10/06/617 にあるので、興味ある方はぜひ読んでみて欲しい。「ニュートリノ振動」を研究することで、ニュートリノの質量やニュートリノがどう混じり合っているのか、素粒子の基本性質が明らかになる。

 

我々の研究室では、加速器で生成したニュートリノビームを使って「ニュートリノ振動」を測定する実験(K2K実験とT2K実験:http://t2k-experiment.org/)をおこなっている(図2参照)。K2K実験では、上記の大気ニュートリノの振動を、世界で始めて人工ニュートリノで観測することに成功した。そして今、さらに高性能な加速器J-PARC(https://j-parc.jp)を使って、より高感度で「ニュートリノ振動」の研究を進めている。2013年には3種類目のニュートリノ振動(ミュー型ニュートリノから電子型ニュートリノへの振動)を発見することに成功した(図3参照)。最近は、ニュートリノの反粒子である反ニュートリノのビームを使って、「粒子と反粒子の対称性」の研究に力を入れている。また、新学術領域研究「ニュートリノフロンティアの融合と進化」(http://www-he.scphys.kyoto-u.ac.jp/nufrontier/index.html)を立ち上げ、ニュートリノ研究全般を広く研究している。次の大発見には、また少し時間がかかりるかもしれないが、より興味深い新現象を探して、素粒子の研究は進んでいる。

 
図2:T2K(Tokai-to(2)-Kamioka)実験の概略図(T2K実験グループ、KEK/J-PARC提供)
図3:ミュー型ニュートリノから電子型ニュートリノへ振動したイベント候補(T2K実験グループ提供)。
スーパーカミオカンデ内側の展開図で、色が光検出器が観測した光量を表している。