生物物理学教室・教授 森 和俊
2003年11月に任用されてから、理学部生を対象とした分子生物学I と II、生物学セミナー(ともに2004年から)、細胞内情報発信学(2006年から)、細胞生物学(2010年から)と多数の講義を行っている。これらの講義では、受講生の知識レベルが割と揃っているので、少しでも多くの学生にミクロ生物学の魅力を伝えようと努力しているつもりである。
やっかいなのは全学共通科目「生命現象の生物物理学(今年から生物物理学入門と改名)」の2回分である。誰が受講してもよいので、開講時に尋ねると、高校時代に生物を全く履修していない学生が半分以上いる上に理科を「生物」で受験した学生もかなりいるという、とんでもなくヘテロな集団が対象だからである。どう講義を進めたらより多くの(全員は無理としても)学生が興味を持って聞いてくれるのか、試行錯誤してきた。易しいことばかりでも難しいことばかりでも誰かが眠りに落ちてしまう。様々な工夫をし、終了後には、感想やコメントを4行以上書いてくれたら試験の時におまけすると告げて用紙を渡し、反応を確かめている。
こんな腐心を聞きつけたのか、講談社ブルーバックスの編集者が生命科学入門書を執筆して欲しいと依頼してきた。柳田充弘元教授が30年以上前に上梓した「DNA学のすすめ」以降、知的好奇心あふれる人が楽しめる入門書がないのだそうだ。引き受けてみるとやはり大変な作業であったが、5月20日に「細胞の中の分子生物学」という題名で出版することができた。5月27日の夕方から6月20日まで、アマゾン売れ筋ランキング「遺伝子・分子生物学」部門で1位をキープしていた。しかしながら、やはり一般の方には難しい本らしい。
ゆとり教育が終わった高校生物の教科書を見ると、とんでもない詰め込みになっている。本当に先生が教えきって生徒は消化できるのか心配になってしまう。一般教養人や学部生だけでなく、高校生がまずこの本を読んでミクロ生物学に興味を持ってくれれば無上の喜びである。