神野 裕貴
1888年、オーストリアの植物学者ライニッツァーとドイツの物理学者レーマンによって液晶が発見されました。液晶の分子は細長い形で向きの秩序をもち、その名の通り結晶状態と液体状態の中間状態を取ることができます。では、そんな結晶と液体の中間相はどんなことに応用できるのでしょうか。
最も普及している応用例は液晶ディスプレイです。2枚のガラス基板の間で向きだけがそろっているネマティック相と呼ばれる状態をとっています。ガラス基板に特殊な処理を施して液晶分子に特定の向きを向かせ、その向きに対して垂直に電場や磁場などの外場をかけると、ガラス基板に施された処理によって誘導されている方向へ向きたい弾性力と、外場によって誘導される方向へ向きたい力がせめぎ合います。このように外場によって液晶の向きに変化が現れる現象をフレデリクス転移と呼びます。フレデリクス転移で液晶分子の向きが変化することにより、2枚のガラス基板と液晶分子からなる素子全体の光学的な状態が変化します。
その他にも液晶は様々なことに応用されています。液晶には温度変化によって状態が変化するサーモトロピック液晶と呼ばれる液晶と、濃度変化によって状態が変化するリオトロピック液晶の大きく分けて2種類があります。リオトロピック液晶でできたミセルの中にサーモトロピック液晶の構造を閉じ込めると、液晶ナノミセルというものができます。例えばこの中に薬剤などを閉じ込めると、ミセルの中の液晶の秩序を変化させることで中の薬剤を保持したり放出したりできます。このように、ナノレベルの秩序を操って日常を豊かにする力を持った物質が液晶です。