[SG1]データ同化の数理と応用:理論モデルとデータをつなぐデータサイエンス

活動報告
データ同化は、理論モデルによる数値シミュレーションと実測データをつなぐデータサイエンスであり、力学系理論および統計数理に基づく学際科学である。平成29年度の活動として、前期・後期に講義「データ同化A・B」を実施した。前期のデータ同化Aは17名が履修し、データ同化の理論と応用について、その入門から基礎を学んだ。低次元のカオス力学系モデルを使った実習課題に取り組むことで、実際の問題に適用するために必要な実践的な基礎技術を習得した。後期のデータ同化Bは3名が履修し、前期で履修した内容を前提とした上で、データ同化の理論と応用についてその基礎を究め、実際の応用力を養った。履修者の興味に応じて独自に課題を設定した実習を行い、3名がそれぞれデータ同化の理論面、大気モデル及び交通流モデルへの応用の問題に取り組み、様々な問題に直面し解決することを通じて、データ同化に関する理解を深めた。
参加メンバー
氏名 | 所属 | 職名・学年 |
---|---|---|
坂上 貴之(代表教員) | 数学・数理解析専攻 | 教授 |
余田 成男 | 地球惑星科学専攻 | 教授 |
三好 建正 | 理化学研究所 | チームリーダー |
大塚 成徳 | 理化学研究所 | 研究員 |
小槻 峻司 | 理化学研究所 | 研究員 |
専攻横断型講義「データ同化A」(前期):17名
専攻横断型講義「データ同化B」(後期):3名
[SG2]イメージングと数理の融合:動きや形の定量とモデリング
活動報告
SG2グループでは以下の活動を行った。
(1)外部講師によるセミナー
(2)集中講義
(3)入門講義
(4)輪講
(1)では、主に動態ネットワーク解析に関わるセミナーを開催した。具体的には下記の通りである。
- 脳内ネットワークの同定の研究(6月23日)
講演者:中江 健氏(京大情報)
タイトル:コネクトミクス〜脳の中のネットワーク〜 - 器官形態形成原理に関わる細胞・組織レベルにおける動態解析(7月28日)
講演者:森下 喜弘氏(理化学研究所 生命システム研究センター)
タイトル:器官発生過程の定量と数理 - トロピカル幾何学によるスケール変換を用いたネットワーク解析(1月30日・31日)
講演者:Carlos Lopez氏(Vanderbilt University)
タイトル:A modeling framework to analyze dynamic network processes using tropical algebra (Jan, 30)
Title: Identification of execution modes in biological network dynamics with tropical algebra methods (Jan, 31) - 幾何学的形態測定学,理論形態学と植物フェノタイピングへの応用(2月27日)
講演者:野下 浩司氏(東大農学・JSTさきがけ)
タイトル:かたちを測る:形態測定学と応用としての植物フェノタイピング
(2)では、情報幾何学の基礎事項に関する集中講義を行った。これは情報幾何学を用いた脳科学の手法を理解するために開催されたものである。具体的には下記の通りである。
- タイトル:情報幾何学入門-幾何学者から見た情報幾何学(9月28日・29日)
講師:松添 博氏(名古屋工業大学)
(3)では、脳科学に関わる機械学習に関わる入門的講義を行った。具体的には下記の通りである。
- 第一回:機械学習の基礎と生物データにおける逆問題への応用(10月18日)
講師:本田 直樹氏(生命科学研究科)
概要:機械学習の最も基礎である回帰と判別について解説し、生物学的に意味のある応用ついて、実例を紹介しつつ議論した。 - 第二回:深層学習技術の紹介と野鳥の歌解析への応用(11月10日)
講師:小島 諒介氏(京大医学研究科)
概要:深層学習の概要について説明し、その後、ロボット聴覚と呼ばれる「ロボットが音で環境を理解する問題」へと深層学習を応用した例、特に、野生の鳥が歌でどのようにコミュニケーションをとっているかの解析への応用について解説した。 - 第三回:機械学習技術の進展とその数理基盤(11月17日)
講師:鈴木 大慈氏(東大情報)
概要:機械学習の概要からその理論の初歩および最近の展開を概観的に紹介した.特に,過学習や正則化といった機械学習の基本事項から深層学習の最近の話題といった内容をその背景にある理論を交えて解説した. - 第四回:機械学習の脳イメージングへの応用:ヒト行動のモデル化とfMRI脳活動の判別(11月24日)
講師:鹿内 友美氏(理化学研究所)
概要:脳波や機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた、ヒト脳イメージングデータ解析と用いられる機械学習、さらに迷路ゲームに取り組む際のヒト行動と脳活動データへの適用例を紹介した。
(4)では、機械学習に関する輪講を行った。12月から毎週金曜日の4限に開催した。テキストは、ビショップ著「パターン認識と機械学習」の日本語訳を用いた。
参加メンバー
氏名 | 所属 | 職名・学年 |
---|---|---|
加藤 毅(代表教員) | 数学・数理解析専攻 | 教授 |
平島 剛志 | 医学研究科 医学・医科学専攻 | 講師 |
松田 道行 | 生命科学研究科 高次生命科学専攻 医学研究科 医学・医科学専攻 |
教授 |
寺井 健太 | 生命科学研究科 高次生命科学専攻 | 准教授 |
三内 顕義 | 数理解析研究所 | 特任助教 |
本田 直樹 | 生命科学研究科 高次生命科学専攻 | 特定准教授 |
大村 拓也 | 物理学・宇宙物理学専攻 | D3 |
谷口 純一 | 化学専攻 | D3 |
幕田 将宏 | 物理学・宇宙物理学専攻 | D2 |
上野 賢也 | 生物科学専攻 | M2 |
岸 達郎 | 物理学・宇宙物理学 | M2 |
高橋 健 | 数学数理解析専攻 | M2 |
小川 晃 | 生物科学専攻 | M1 |
日高 拓也 | 化学専攻 | M1 |
村田 隆 | 生物科学専攻 | M1 |
日高 拓也 | 化学専攻 | M1 |
石川 基 | 理学部 数学科学系 | B4 |
笹谷 晃平 | 理学部 数理科学系 | B4 |
林 大寿 | 物理科学系 | B4 |
熊田 隆一 | 理学部 生物系 | B3 |
林 優作 | 理学部 生物系 | B3 |
渡邊 絵美理 | 理学部 生物系 | B3 |
尾崎 彰俊 | 理学部 | B2 |
石田 祐 | 理学部 | B1 |
[SG3]VRで見る・3Dで触る先端科学
活動報告
ヘッドマウントディスプレイにポジショントラッキングの技術を組み合わせて没入型VRを実現する装置が、近年一般向けに比較的安価で販売されるようになった。これにより現在VR技術は大いに注目されている。いわゆるゲームエンジンと呼ばれるソフトウェアを利用することで、これらの装置に対応したアプリケーションを開発することも難しくない。
8月に行ったガイダンスでは、参加学生に実際にこれらの装置を体験してもらい、また3Dモデルのフォーマットや簡単な作成方法、ゲームエンジンを用いたVR装置の利用方法などについて解説した。その後9月下旬に1週間かけて、参加者個々人の専攻・専門分野において興味ある対象を可視化するためのアプリケーションの開発などを行ってもらった。
実際にできあがった作品は、分子構造を手にとって観察したり、流体や常微分方程式の軌道を中に入って見てみたり、ボクセル(3次元画像)データをVR表示したりと、基本的かつ応用の多いものばかりであり、非常に理学部・理学研究科らしい結果になった。1週間という短い期間で、慣れない開発環境を自分の力で使いこなして成果を挙げてくれた学生が多くいたことには非常に感心させられた。
残念ながら未完成に終わった学生もいたが、色々試行錯誤したり、他の人の作品を見たりしていく中で、基本的な手法は理解してもらえたのではないかと思う。 できあがった作品については、順次 https://macs-vr.github.io/ にて公開していくので、そちらを参照されたい。
来年度も(できればそれ以降も)このSGは継続する予定なので、今年の成果を踏まえて更に面白い作品が現れることを楽しみにしている。VRだけでなく、3次元モデルを作成して3Dプリンタで出力する、ということもテーマに掲げていたが、実際には参加学生は皆VRでの可視化をメインに取り組んでいたため、残念ながらほとんど利用されなかった。こちらも作品を気軽に手に取って見られるという意味では大きなメリットがあると思うので、来年度以降取り組んでくれる学生が来ることを期待したい。
参加メンバー
氏名 | 所属 | 職名・学年 |
---|---|---|
稲生 啓行(代表教員) | 数学・数理解析専攻 | 講師 |
坂上 貴之 | 数学・数理解析専攻 | 教授 |
佐々木 洋平 | 数学・数理解析専攻 | 助教 |
松本 剛 | 物理学・宇宙物理学専攻 | 助教 |
市川 正敏 | 物理学・宇宙物理学専攻 | 講師 |
石塚 裕大 | 数学・数理解析専攻 | MACS特定助教 |
阿部 邦美 | 化学専攻 | 技術専門員 |
山本 隆司 | 生物科学専攻 | 技術専門職員 |
西上 幸範 | 物理学・宇宙物理学専攻 | 学振PD |
大村 拓也 | 物理学・宇宙物理学専攻 | D3 |
幕田 将宏 | 物理学・宇宙物理学専攻 | D2 |
小林 沙織 | 物理学・宇宙物理学専攻 | M2 |
日高 拓也 | 化学専攻 | M1 |
外村 一朗 | 数理科学系 | B4 |
[SG4]種々の実例から考えるパターン理論
活動報告
2017年度SG4「種々の実例から学ぶパターン理論」では、Mumford—Desolneux の Pattern theory を輪講した。本のテーマは多岐に渡るが、数理に多少触れたことがある人物をターゲットにした本で、一つの大きな目的は「機械学習の背景にある数学を、実例に対して実際に使いながら学習する」である。この実例というのが非常に身近で、文字列から文章構造を取り出す、音源から音楽を取り出す、書き文字から文字を認識するなど、いかにも機械学習が得意としそうなテーマである。それぞれのテーマで三つの学習事項が用意されている:数学理論の復習、それらを用いたなるべく簡単なモデルの設計、実際の計算で登場するアルゴリズムについての学習だ。そしてテーマが進むにつれ、背景にある数学理論や用いるアルゴリズムがだんだんと難しくなるように設計されている。さらにその後のモデルの改善についても多少触れてあるほか、演習問題まで踏み込むと、ある程度実際に計算することもできるようになっている。本セミナーの目的は、教科書のこうした特徴を活かして、理学でも広範に用いられている機械学習について、数理的な原理を学びながら、理学の分野に縛られず互いの知識を共有し合うということにあった。
実際には第1章の「文字列と文章」を重点的に学習した。離散的な確率であるため、積分 論などを気にせず読み進められることが目的のために有益と判断したからである。この離散的な枠組みで、Shannon エントロピーや KullbackーLeibler 距離などの情報理論の概念、およびその使い方などを(ある程度の証明を含めて)学習した。さらに n-gram model のアイデアとそれが元の分布に収束していく度合いなどを理論的に確認したあと、学生が実際に組んだプログラムを通して、より高度なモデルを得るための課題も確認しあった。さらに2章、4章の内容をまとめてくれた学生がいたため、連続的な確率を扱う場合の違いや、信念伝播法などのアルゴリズムなどについても簡潔に学習することができた。
全体として学生と教員がかなり自由に議論しあっていたように思う。ただし演習の数が少なくなり、結果、抽象的な理解に留まってしまったかもしれない。また専門的な参加者がいなかったために、議論が結論まで収束しないことが多かったとの指摘もあった。今後の活動の反省点として活かしていきたい。
参加メンバー
氏名 | 所属 | 職名・学年 |
---|---|---|
石塚 裕大(代表教員) | 数学・数理解析専攻 | MACS特定助教 |
林 重彦 | 化学専攻 | 教授 |
中村 ちから | 数学・数理解析専攻 | D2 |
坂田 諒一 | 物理学・宇宙物理学専攻 | M2 |
藤田 和樹 | 物理学・宇宙物理学専攻 | M2 |
[SG5]Category Theory and Natural Sciences
活動報告
昨年度入門した圏論をもう少し深めたかった。具体的には、熱力学エントロピーと圏論の関係に焦点をあてた。熱力学とは、平衡状態に対して、可能な平衡状態間遷移を考えて、そこにある法則を体系化する。素朴に、平衡状態を「対象」として、操作による状態間遷移を「射」とみると、何だか圏論の設定のようでもある。熱力学第2法則を圏論の言葉で書くことで、熱力学を離れて「熱力学第2法則」が登場する様子が理解できるかもしれない。
第1部では、圏論の初歩の初歩というか、最低限の言葉を理解する。これは、Leinster のベーシック圏論を使って、圏、関手、自然変換という言葉や概念になれることを目指した。当初の目論見では、夏休みの自習で、ベーシック圏論を全部読むつもりが、やはりひとりでゆったり読む機会は作れなかった。一人で読んでいると、どうしても、頭がぐらぐらしてついていけないところがでてくる。ゼミだと、分からん、分からん、と言って、あの手この手で説明を聞いていると、次第に見えてくるのだが。
第2部では、圏論ではなくて、Lieb-Yngvason の公理論的熱力学の基本的な枠組みを理解することを目指した。設定と公理とそこから得られるエントロピーの存在に至るまでの論旨を共有したかった。僕は20年程前に論文がすぐにでて勉強して以来だったが、熱力学エントロピーは普段から研究対象なので、僕にとっては馴染みが深いものである。しかしながら、数学系の人にとっては、設定がどうも腑に落ちないらしく、色々な議論をすることになった。
第3部では、リソース理論をモノイダル圏の言葉で書き直す文献を読んだ。僕は、リソース理論は聞きかじった程度、モノイダル圏は初対面なので、遅遅として進まなかった。また、2週間に一度の集まりなので、2週間たつと、同じところで同じようにひっかかることもしばしばだった。残念ながら、その文献を最後まで読むことはできなかった。
参加メンバー
氏名 | 所属 | 職名・学年 |
---|---|---|
佐々 真一(代表教員) | 物理学・宇宙物理学専攻 | 教授 |
岸本 大祐 | 数学・数理解析専攻 | 准教授 |
石塚 裕大 | 数学・数理解析専攻 | MACS特定助教 |
太田 洋輝 | 物理学・宇宙物理学専攻 | MACS特定助教 |
久保 進太郎 | 生物科学専攻 | D1 |
更科 明 | 数学・数理解析専攻 | D1 |
向井 大智 | 数学・数理解析専攻 | D1 |
日浦 健 | 物理学・宇宙物理学専攻 | M1 |
中田 雄斗 | 生物科学系 | B4 |
今村 悠希 | 数理科学系 | B3 |
岩木 惇司 | 物理系 | B3 |
[SG6]細胞内化学反応の数理モデリング
活動報告
2017年度MACS-SG6「細胞内化学反応の数理モデリング」では、スタディーグループの前半をB. Ingalls著「Mathematical modelling in systems biology」の輪講、後半を参加者自身の研究発表や関連論文紹介を通した議論とし、活動を行った。
前期の輪講では、単純な化学反応から始まり、そこから段階的に酵素反応が単純な化学反応の組み合わせとしてどのように導出されるかを学んだ。議論パートでは、専攻の異なる参加教員によって異なる角度から、遺伝子制御ネットワークについての基礎を紹介するセミナーを行った。
後期の輪講は、遺伝子制御ネットワーク、特にリプレッサーとアクティベーターの数理モデリングから始まり、それらと酵素反応等の組み合わせた数理モデルが、実際の細胞で見られるスイッチ的振る舞いや振動現象を示すこと、そして数理モデリングを併用した2000年頃から始まる構成的生物学の基礎を学んだ。後期の議論パートは、分化、リプログラミング、パターン形成等の数理モデルの論文紹介を行った。
また後期には、望月敦史さん(理研望月生物学研究室)に、広いクラスの化学反応ネットワークで成り立つ限局則に関する理論、柴田達夫さん(理研生命システム研究センター)に細胞間相互作用から発生ダイナミクスを理解する数理モデル、戎家美紀さん(理研生命システム研究センター)に自発分化等の最先端の構成生物学について、オープンセミナーとして講演していただいた。
SGの回を重ねるにつれて、専攻によって異なる専門用語にも徐々に慣れていき、議論したい話題が増えるとともに徐々に自分で調べて先に進めていけるようにもなった。今回の活動が、将来的にそれぞれの参加者の研究を発展させるヒントになっていくと期待する。
参加メンバー
氏名 | 所属 | 職名・学年 |
---|---|---|
太田 洋輝(代表教員) | 物理学・宇宙物理学専攻 | MACS特定助教 |
國府 寛司 | 数学・数理解析専攻 | 教授 |
Ganesh Pandian NAMASIVAYAM | 化学専攻 | 助教 |
柴田 達夫 | 理化学研究所 | チームリーダー |
井倉 毅 | 放射線生物研究センター | 准教授 |
古谷 寛治 | 放射線生物研究センター | 講師 |
西口 純矢 | 数学・数理解析専攻 | 教務補佐員 |
Zutao YU | 化学専攻 | D2 |
日高 拓也 | 化学専攻 | M2 |
田中 祥貴 | 理学部 生物系 | B4 |
[SG7]自然科学における統計サンプリングのプログラミング・シミュレーションの実践
活動報告
本 SG では、統計サンプリングに関わるプログラミングやシミュレーションの実践をグループディスカッション形式で行った。まず、参加者が自身の興味に基づいて統計サンプリングに関わるテーマの提案及びプログラミング・シミュレーションの実践を行い、グループディスカッションで提案内容、実施結果や実施途中での疑問点等に関して検討を行った。また、関連するテーマの研究を行っている二名の外部研究者を講師として招聘し、セミナーを開催した。
まず、SG グループの活動に関して報告する。まず、機械学習による文字認識プログラムコードの実装を行った。ボルツマン機械学習を用いた 3 x 3 の記号認識に関するプログラムを実装し、SG グループメンバーでの共有を行い、方法論及びプログラムの解説と議論を行った。さらに、28 x 28 の文字認識を行うために、deep belief networkを用いた深層学習プログラムコードの実装を行った。次に、分子動力学シミュレーションプログラムコードの実装を行った。まずはニ粒子レナードジョーンズ原子の衝突からスタートし、周期境界条件下でのレナードジョーンズ液体、更には液体状態の水のシミュレーションのプログラムへと発展させた。最後に、分子シミュレーションデータを用いた水分子クラスター構造変化のデータ同化法の開発を行った。上記の開発した水分子のシミュレーションコードを用いて、三量体の水分子クラスターの構造変化に関するデータのサンプリングを行い、後述の松永氏のセミナーで紹介のあったデータ同化の手法を開発・実践し、方法論の理解を高めその有用性を確認した。具体的には、シミュレーションによるサンプリングで得られた速度論的モデル(マルコフ遷移モデル)に対して、仮想系のシミュレーションを実験結果と見立てたデータ同化を行い、仮想系の正しいモデルパラメータを得ることに成功した。
次に、外部講師セミナーであるが、最初の講演では、畑中美穂氏(奈良先端大学)を講演者として招聘し、「自動反応経路探索を用いる触媒反応の機構解明と機械学習による効率的解析」というタイトルでセミナーを行い、研究の詳細に関する議論を行った。次に、松永康佑氏(理化学研究所・JST さきがけ)を講演者として招聘し、「機械学習を用いた計測とシミュレーションの統合によるタンパク質動態解析」としてセミナーを行い、研究の詳細に関する議論を行った。
参加メンバー
氏名 | 所属 | 職名・学年 |
---|---|---|
林 重彦(代表教員) | 化学専攻 | 教授 |
高田 彰二 | 生物科学専攻 | 教授 |
岡崎 智久 | 地球惑星科学専攻 | D3 |
金曽 将弘 | 化学専攻 | M2 |
小山 糧 | 化学専攻 | M2 |
長岡 仁 | 化学専攻 | M2 |
松山 綾夏 | 化学専攻 | M1 |
村田 隆 | 生物科学専攻 | M1 |
西尾 宗一郎 | 化学系 | B4 |
松澤 優太 | 化学系 | B4 |
[SG8]振動/運動でつなぐ生命現象と数理的原理
活動報告
生命現象の基本的な原動力は多様な生化学的反応系にあるが、生命現象に見られる運動や振動は数理的アプローチによっても理解が進んできた。本SGでは、概日リズムという化学反応系としては非常に長い周期(およそ1日周期)をもつ振動現象を中心に、細胞の運動に働く生体分子の構成などについて数理的な視点から議論した。参加教員それぞれの具体的な研究内容の紹介を議論の出発点に、数理モデルのシミュレーションも実地で進めることで、それらの現象の背後にある数理的な論理の理解を深めた。これらのSG活動から、植物個体内の概日リズムにみられる空間的特徴や外部環境周期への生物時計の同期現象に関して、SGメンバー内での個別共同研究へと発展した。
また、SG活動の一環として、概日時計発振のための温度条件に関して、分岐理論に基づく最新の研究成果を九州大の伊藤浩史助教に発表していただいたほか、オルガネラ、細胞、組織、器官などの階層性に基づく植物の概日振動系の理解を目指したミニシンポジウムを海外の研究者(Antony Dodd博士、Bristol大)も交えて開催した。これらの外部講師を交えた会合を通して、幅広い知見を得た。
さらに、生物の遺伝子発現変動の非侵襲的な測定で用いられる生物発光技術の根幹にある自然界における生物発光生物の発光現象を直接観察することで、生物発光の本質の理解を進めた。三重県鳥羽市菅島にある名古屋大学大学院理学研究科附属臨海実験所でウミホタルをはじめとする様々な海洋発光微生物を観察した。
さらに、沖縄県西表島にある琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設をベースにヤエヤマホタルなど熱帯型のホタルの明滅現象を観察した。自然環境における生物圏の最前線に位置する研究施設で研究に従事する研究者と議論を交えることで、明滅現象の意義、日周・潮汐といった外部環境周期と発光現象とのつながりなど、生命の幅広い動的な現象についての知見を広めた。
参加メンバー
氏名 | 所属 | 職名・学年 |
---|---|---|
小山 時隆(代表教員) | 生物科学専攻 | 准教授 |
藤 定義 | 物理学・宇宙物理学専攻 | 准教授 |
市川 正敏 | 物理学・宇宙物理学専攻 | 講師 |
松本 剛 | 物理学・宇宙物理学専攻 | 助教 |
西上 幸範 | 物理学・宇宙物理学専攻 | 学振PD |
大村 拓也 | 物理学・宇宙物理学専攻 | D3 |
幕田 将宏 | 物理学・宇宙物理学専攻 | D2 |
上野 賢也 | 生物科学専攻 | M2 |
磯田 珠奈子 | 生物科学専攻 | M1 |
篠 元輝 | 生物科学専攻 | M1 |
熊田 隆一 | 生物系 | B3 |
[SG9]本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る
活動報告
本SGでは、数理と生物科学との分野横断の実例を学ぶことを目的に、F Michon他による "BMP2 and BMP7 play antagonistic roles in feather induction (Development 2008)” およびAE Shyer他による "Emergent cellular self-organization and mechanosensation initiate follicle pattern in the avian skin (Science 2017)”の輪読を行った。これらの論文は、ニワトリ胚の皮膚にできるぶつぶつ構造(羽原基)の形成パターンについて、「分泌因子群の反応拡散モデル(前者)」と「細胞凝集による物理的な変化(後者)」による検証を行っており、一つの発生現象についてケミカルとメカニカルの両方の視点を学ぶことができた。参加学生は生物系の学生のみであったが、数学・物理の参加教員たちに論文で出てくる数理を解説していただいたため、想定以上に内容を理解できた。また、本SGではニワトリ胚の観察実習として、前期は羽原基の形成時期・場所の観察を、後期は皮膚組織の培養および後者の論文の再現実験(物理的要素の変化させた際の羽原基形成への影響解析)を行った。実際に自分の手を動かしてみることで、論文の写真からでは分からない、本物の美しさや複雑さ、一つの実験データを出すことの難しさや実験が上手くいった時の喜びなどを感じることができたのではないだろうか。
本SGは当初、反応拡散モデル(ケミカルな要素)に焦点を当てるつもりだったが、羽原基の解析にメカニカルな要素を初めて持ち込んだ後者の論文に出会い、方向性をシフトした。結果的に、このシフトは大成功だったと思う。これまで、発生現象の解析において物理的なパラメーターの測定や実験的に変化させたりするのは、特殊な装置がないと困難だと思っていたが、その固定観念はかなり壊された。来年度の実習では、輪読する論文の再現のみならず、自分たちが注目した現象に対してメカニカルな要素を変化させた際の影響の解析も行いたい。
3月には、石松愛 博士(Harvard Medical School)に脊椎動物の体節形成に関する研究について講演いただいた。研究内容そのものに加えて、論文を読むだけではわからない数理と実験とを組み合わせた解析の実際など、第一線で戦っている方だからこその話を聞くことができた。
参加メンバー
氏名 | 所属 | 職名・学年 |
---|---|---|
高瀬 悠太(代表教員) | 生物科学専攻 | MACS特定助教 |
高橋 淑子 | 生物科学専攻 | 教授 |
國府 寛司 | 数学・数理解析専攻 | 教授 |
荒木 武昭 | 物理学・宇宙物理学専攻 | 准教授 |
福田 浩也 | 理学部 生物系 | B4 |
吉田 純生 | 理学部 生物系 | B3 |
渡邊 絵美理 | 理学部 生物系 | B3 |
多胡 徹也 | 理学部 | B2 |
司 悠真 | 理学部 | B2 |