浜 直史

 

素粒子論の研究目的は人類の知的好奇心の満足だ。特に、超弦理論と呼ばれて研究されている理論は、完成すれば世界中のあらゆる現象を説明できると考えられてはいるものの、その完成にはまだ遠く、さらに実験での実証となると百年以上の時間がかかるだろう。そのような研究を行う研究者の間では、研究成果に対する独特の評価基準がある。そして、その基準において高く評価されているのが、V. Pestun の研究だ。

 

V. Pestun は、昨年からフランスのIHES という研究所で教授職に就いている、若手の気鋭の研究者だ。彼は2003 年からの大学院時代をプリンストン大学で過ごした。当時の指導教授は、フィールズ賞も受賞し、現在の最大の素粒子論研究者と称されるE. Witten だ。

 

その大学院時代にPestun は、最初の大きな業績となる論文を発表した。彼は、その十数年前にWitten らが発展させた計算方法が、超弦理論の研究の最前線に現れるような現代的な問題にも使えることを発見したのだ。

 

超弦理論のように難しく、特に数学的に未解決の問題がまだ多くある分野では、その未知の中から、今の人類の数学的知見でも研究できる程度の未知を探し出してくるような論文こそが、重要な論文とされている。

 

そして、Pestun の研究結果の計算方法は、研究可能な未知としての多くの研究材料を他の研究者に与えたのだった。例えば、その計算方法自体を更に発展させるものや、こうやって数学的に計算できた新たな量の物理的な意味を解釈するものなどだ。この意味で彼の研究結果は、研究者の間で高く評価されている。