ビッグバン元素合成研究に残る最後の重要核反応確率を初測定

ビッグバン元素合成研究に残る最後の重要核反応確率を初測定

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2017/02/16更新

-ビッグバン元素合成の謎がさらに深まる-

川畑貴裕 本研究科物理学・宇宙物理学専攻准教授、市川真也 同修士課程学生、越川亜美 同修士課程学生、久保野茂 理化学研究所客員主管研究員、岩佐直仁 東北大学准教授らの研究チームは、ビッグバンによる元素合成で起こる7Be+n→4He+4He反応の断面積(量子力学的な粒子が衝突し、散乱ないしは反応を起こす確率を表す量)を初めて測定することに成功しました。ビッグバン元素合成で生成される元素のうち、7Liは理論的に予測されているよりも少ない量しか観測されていません。「宇宙リチウム問題」と呼ばれるこの問題を解く仮説の一つとして、今回取り上げた反応が高い確率で起こっている可能性が指摘されていましたが、今回の測定結果によりこの仮説では説明が難しいことが分かりました。

 

本研究成果は、2017年2月3日午後2時に米国の学術誌「Physical Review Letters」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、川畑准教授、市川修士課程学生、越川修士課程学生

 川畑:理化学研究所の久保野客員主管研究員が発案された研究テーマを、本学学部学生の卒業研究として実施しました。3学年20名の学生諸君の努力が、世界的に注目を集める研究成果として結実したことを嬉しく思います。残念ながら、 「宇宙リチウム問題」を解決するには至りませんでしたが、本研究の成果は、原子核反応率の見直しや、標準ビッグバン模型を超える新しい物理の探索など、宇宙リチウム問題へのさらなる研究を動機づけることになると思います。

 

 市川:学部生のうちにこれほど意義深い実験を行え、それが学術論文という形になったことがとても嬉しいです。大学院でも成果が出せるように、これからも研究に全力を尽くしていきます。

 

 越川:学生実験の成果が論文誌に掲載されることになり、非常に嬉しく思います。 実験のデザインからビームタイム、実験後のデータ解析や学内外の成果発表に至るまで、学生が主体となって取り組んできたこともあり、感慨もひとしおです。指導教員や大学院生のサポートがあってこそできた研究です。このような貴重な経験ができたことに感謝します。

概要

多くの物理学者は、今から約140億年前におこったとされる「ビッグバン」によって、宇宙が誕生したと考えています。ビッグバン理論によると、宇宙開闢の約10秒後から20分後にかけて「ビッグバン元素合成」がおこり、水素、ヘリウム、リチウムなどの軽い元素が生成されました。宇宙初期における軽元素の生成量について、観測による推定値とビッグバン元素合成計算による予測値を比較することは、宇宙創生のシナリオを明らかにする上で極めて重要な知見をもたらします。

 

水素とヘリウムの同位体については、生成量の観測推定値と理論予測値がよく一致している一方で、7Liについては、生成量の観測推定値が理論予測値の約3分の1でしかないという重大な不一致が知られています。この不一致は「宇宙リチウム問題」と呼ばれ、ビッグバン理論に残された深刻な問題として世界中の研究者の関心を集めています。

 

この問題を解く仮説の一つとして、7Be+n→4He+4He反応が高い確率で起こっている可能性が指摘されていました。しかし7Beとn(中性子)がともに短寿命の不安定核であるため、この反応を測定することは容易ではありません。

 

そこで本研究グループは、逆反応である4He+4He→7Be+n反応の断面積を測定する手法を着想し、大阪大学核物理研究センターの施設を用いて実験を実施しました。

 

その結果から、詳細釣り合いの原理(原子核反応の時間反転不変性から導かれる性質で、順方向の反応断面積と逆方向の反応断面積は、スピン多重度や状態密度などの運動学的条件を除けば厳密に等しいという性質)を用いて7Be+n→4He+4He反応の断面積を決定することに成功しました。

 

本研究によって初めて測定された 7Be+n→4He+4He反応の断面積は、これまでビッグバン元素合成の理論計算に広く用いられていた推定値より約10倍も小さい値であり、宇宙初期において中性子が7Beに衝突して2つの4Heに分解する反応の寄与は非常に小さいことが明らかになりました。

 

本研究では、共同利用・共同研究拠点である大阪大学核物理研究センターより、大学の枠を超えた教育用ビームタイムの提供を受けました。