プロジェクト「サイコム」について(2016年度報告集から)

日本の教育現場では、論理的な文章を書くトレーニングの場があまりありません。読書感想文に代表されるように、文章を書くことにおいて、論理性よりも「共感の形成」が重視されているのではないでしょうか。 そもそも、日本の学校では、自分の意見を表明したうえで論理的に相手を説得する機会が少ないように思います。

 

そのような現状を踏まえ、京都大学の理学部生・院生を対象に、高度な科学を分かりやすく書くトレーニングを提供したいと思い、「サイコム」をはじめ、二年目が終了しました。今年度は講師として五十嵐杏南さんを迎えました。五十嵐さんは、イギリス・インペリアルカレッジでサイエンスコミュニケーションの修士号をとられましたが、五十嵐さんがもたらす欧米のノウハウは、新鮮で効果的に感じました。

 

サイコムの参加学生は、毎月与えられる課題について文章を書きます。まずは第一原稿を提出し、次に講師が添削し、最終稿へと仕上げます。この報告集は、最終稿に加え、いくつか添削例も載せました。 年度の後半では、やや高度な課題として、京都大学における記者発表を取材して書く、科学に関するコラム・社説風の記事を書く、というようなことにも取り組んでいます。

 

サイコム一年目と同様ですが、参加学生の科学についての知識は目を見張るものがあります。よい講師を得て、ライティング技術も格段に向上しました。参加学生は3人ですが、大きな成果があがったと考えています。 皆さんには、どのように映るでしょうか。

 

京都大学国際広報室の菊地乃依瑠さんにもプログラムへのサポートと原稿へのコメントを頂きました。 この冊子の出版には、京都大学数学教室から支援を受けています。編集は数学教室の有澤典子さんに手伝っていただきました。 この場をかりて、お世話になりました方々にお礼を申し上げます。

 

平成29年3月
京都大学大学院・理学研究科・数学専攻 教授
藤原耕二