生物科学専攻(動物学系)・教授 中川 尚史
今夏、第27回国際霊長類学会に参加すべくケニアのナイロビを訪れた。同じアフリカのカメルーンでパタスモンキーという霊長類を継続的に調査していた頃の1990年、経由地として立ち寄って以来、実に28年ぶり。当時は、日中市内中心部を一人でぶらぶらもしたし、一人でレンタカーを借りて北部の国立公園を巡った。
今回は、テロの危険を回避すべく郊外にある国連ナイロビ事務局の敷地内での大会開催となり、大会事務局からは中心部の渋滞がひどいこともあって会場の徒歩圏内に宿をとれとのお達しも来た。1998年の爆破テロを受けて移転してきたアメリカ大使館と対面し、2013年に銃乱射テロがあったショッピングモールも数キロに位置するので、その地域が安全なのか疑問が残るが、敷地内については安全に万全を期していた。事前にパスポート番号と顔写真等を登録して作られた名札を見せて、空港同様の保安検査を受け初めて敷地内に入ることを許される。唯一ならず者ぶりを発揮できる霊長類はおそらくサイクスモンキーだけで、カフェで食事をする参加者からバナナを強奪していた。
6日間の会期を滞りなく終えた後、南部の国立公園を視察した。しかし、今回はやはり身の安全を優先し、運転手兼ガイド付きのツアーに参加した。時間を順守し安全運転で、動物を見つける能力も高く完璧な仕事ぶりであった。
こうして最新の研究に触れ、霊長類を含む野生動物も満喫して9日間のケニア滞在を無事終えたわけだが、どこか物足りなさが残った。そう、何のトラブルもなかったのである。『カメルーン・トラブル紀行』(新風舎)を上梓したことがある私としては、身体に危険が及んで欲しいとまでは思わないが、スケジュール通りに進まないとか、理不尽な要求をされるとか、何かが故障するとかピリリと辛い経験がないと、アフリカに来た気がしないのである。観光立国ケニアに対しては、それこそ理不尽な要求なのであろうか?