-アルマ望遠鏡が明かすケイ酸塩に乏しい質量放出星の謎-

瀧川晶 白眉センター(受入先:地球惑星科学専攻)特定助教、上塚貴史 東京大学特任研究員、橘省吾 北海道大学准教授(現・東京大学教授)、山村一誠 宇宙科学研究所准教授らの研究グループは、アルマ望遠鏡を用い、太陽のような低中質量星の一生の末期にあたる漸近巨星分枝星である、うみへび座W星の周りのAlO(酸化アルミニウム)ガス分子とSiO(一酸化ケイ素)ガス分子の分布を、これまでにない高い精度で捉えることに成功しました。

 

本研究成果は、2017年11月2日午前3時に米国の科学誌「Science Advances」に掲載されました。

研究者からのコメント

 ケイ酸塩は地球や宇宙でもっともありふれた化合物の一つです。酸化アルミニウムは、結晶になるとコランダムもしくは宝石名でサファイアと呼ばれ、ケイ酸塩ほどではないですが身近な物質です。 この研究は、豊富に形成される”はず”のケイ酸塩ダストが、なぜ多くの漸近巨星分枝星の周りからそれほど観測されないのだろう?という疑問から始まりました。 観測時間をもらうのに苦労しましたが、最後には恒星の周りでダストが形成する現場を捉えることができました。 高い空間分解能をもつアルマ望遠鏡で、様々な恒星の周りで鉱物ができていく場を明らかにできれば、これから「宇宙鉱物学」は大きく発展していくと思います。

概要

太陽のようにあまり質量が大きくない恒星は、その晩年に大量のガスや固体微粒子(ダスト)を宇宙空間へ放出します。この漸近巨星分枝星は銀河系における金属元素の主要な供給源として重要な役割を担っています。宇宙の中でケイ素はアルミニウムに比べ10倍近く豊富な元素ですが、漸近巨星分枝星の中には、少ないはずの酸化アルミニウムダストが豊富で、多く含まれてしかるべきケイ酸塩ダストが少ないものが数多く観測されています。このような逆転現象が観測される理由は謎に包まれたままでした。

 

本研究グループは、極めて高い空間分解能をもつアルマ望遠鏡を用いて、酸化アルミニウムダストに富む漸近巨星分枝星の一つであるうみへび座W星を観測しました。もし本当にこの星がケイ酸塩ダストに乏しく酸化アルミニウムダストに富んでいるならば、AlOガス分子は恒星近傍で酸化アルミニウムダストを形成するのに使われ、SiO分子はケイ酸塩ダストにならずにガスとして残っていると予想されます。これを実証するために、周囲のAlOとSiOガスの空間分布を観測しました。

 

その結果、AlOガス分子とダストの分布がよく一致する一方で、SiOガス分子は5恒星半径以遠まで拡がっていることから、中心星の近傍で酸化アルミニウムダストが形成されていることがわかりました。ガスからケイ酸塩ダストが作られる割合が低いことも発見しました。恒星の近くで形成され成長した酸化アルミニウムダストが、恒星からの光を受けて恒星風の加速を助け、結果としてケイ酸塩ダストの形成を妨げたと考えられます。本結果は、酸化アルミニウムダストが豊富でケイ酸塩ダストに乏しい漸近巨星分枝星でのダスト形成の謎を解く鍵となる発見です。

図:アルマ望遠鏡が捉えたうみがめ座W星の周りのAlO分子とSiO分子の分布。赤は星とその周囲のSiOが放つ電波、黄色はAlO
 

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