-開放量子系に関する理論予測・実験制御・新規デバイス応用への新たなアプローチが可能に-

川上則雄 本研究科物理学・宇宙物理学専攻教授、小布施秀明 北海道大学助教、望月健 同修士課程学生、 金多景 チューリッヒ工科大学修士課程学生らの研究グループは、東南大学(中国)などと共同で、開放量子系(外界からの影響・ノイズ、外界との粒子やエネルギーのやり取りがある開放系のうち、量子力学的な記述に基づき考察を行うもの)におけるPT対称性と呼ばれる新奇対称性と、トポロジカルな性質(切ったり穴を開けずに、曲げたりねじることにより連続的にある物の形を変える時に、変形の前後で変わらない性質)に由来する局在状態の理論を、ある開放量子系に対し構築しました。さらに、その対称性に伴う特異な局在状態を実験で観測することにより、開放量子系におけるPT対称性を世界で始めて実証しました。

 

本研究成果は、2017年7月31日に英国の学術誌「Nature Physics」でオンライン公開されました。

研究者からのコメント

 本研究を中心となって進めている小布施秀明氏(北海道大学)とは、同氏が京都大学物理教室にポスドクとして滞在した時から共同研究を行っています。今回の実験舞台となった「量子ウォーク」の理論研究はその時に開始したものです。この研究が、最近話題となっている「PT対称性を持つ開放量子系」(粒子の出入りのある量子系)へと大きく発展しました。PT対称性を持つ開放量子系は、今後、研究が急速に進展すると期待される物理学の重要なテーマです。

概要

粒子が出入りする状況の量子力学での説明には困難が伴いますが、PT対称性(空間座標を反転しても物理法則が変わらないことを意味する空間反転対称性と、時間の進む向きを反転しても物理法則が変わらないことを意味する時間反転対称性の2つを組み合わせた対称性)という特殊な対称性がある場合、そのような状況を簡単に説明できるという理論提案がなされていました。しかし、真に量子力学に従う開放量子系に対してPT対称性による記述が可能かどうかは、未解決のままでした。

 

本研究グループは、粒子の流入と流出の釣り合いがとれた状況下で現れるPT対称性とトポロジカルな性質に由来する量子状態についての理論を構築し、その状態を観測することにより、理論の正当性を実証しました。

 

本研究成果をさらに発展させることにより、量子コンピューター実現のために必要な、構成デバイス間の情報の量子力学的な伝達を安定かつ効率的に行う新たな手法や、新規のレーザー発振などの応用への道が開けることが期待されます。

 

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