-一人二役の脳内光受容タンパク質-

七田芳則 本研究科名誉教授(現・立命館大学客員教授)、山下高廣 本研究科生物科学専攻助教、酒井佳寿美 同研究員、筒井圭 同博士課程学生らの研究グループは、ショウジョウバエの脳内で生体リズムの調節に関わる光センサータンパク質を解析し、紫外光を中心に紫色光・青色光も受容できるユニークなセンサーであることを明らかにしました。

 

本研究成果は、2017年8月4日に英国の科学誌「Scientific Reports」にて発表されました。

研究者からのコメント

 動物は周りの光環境から様々な情報を得ています。ものの形や色を認識する視覚だけでなく、光環境の変化から時刻や季節の認識を行っています。このような多様な光受容のために、動物は眼や脳などに光センサータンパク質を持っています。本研究は、ショウジョウバエの脳で時刻の認識に関わる光センサータンパク質が、紫外光を中心に幅広い波長の光を感じるユニークなセンサーであることを明らかにしたものです。本研究から、動物が脳内で光を感じる仕組みの理解が深まると期待されます。

本研究成果のポイント

  • ショウジョウバエの脳で時刻の認識に関わる光センサータンパク質は、紫外光を中心に紫色光・青色光も受容できるユニークなセンサーである。
  • このタンパク質は、紫外光と青色光それぞれを感じる視覚のセンサータンパク質が合わさってカバーする光波長を1つでカバーでき、一人二役の働きをする。
  • 他の動物でも脳内に紫外光を感じるセンサータンパク質があることが報告されており、ヒトは「見る」ことができない紫外光も、動物の脳では「感じる」ことができ、そこから重要な情報を得ていると考えられる。
 

概要

多くの動物は、ものの形や色を認識するために、眼に視覚の光センサータンパク質(オプシン)を持っています。ヒトも暗がりで明暗を認識するオプシン(ロドプシン)と明るい所で色識別を行う3種類のオプシン(赤色光・緑色光・青色光それぞれを受容する)を持つことがよく知られています。さらに、最近の様々な動物の研究から、オプシンは眼以外の脳内などでも機能していることが分かってきました。これら眼以外で働くオプシンは、視覚とは異なる光受容機能、例えば周りの光環境の変化から時刻や季節を知ること、に関わると考えられます。

 

今回本研究グループが解析を行ったショウジョウバエは、昆虫のモデル生物として多くの研究者に広く利用されています。ショウジョウバエは、緑色光・青色光・紫色光・紫外光それぞれに高い感受性を示す計6つのオプシンを眼に持つことが分かっています。つまり、これらのオプシンの組み合わせにより、ものの形や色を認識しています。そして、ショウジョウバエはもう1つ、「第7のオプシン(Rh7)」を持つことが知られていました。しかし、このRh7は眼では働いていません。では、どこで働いているのか、さらには、どの波長の光を吸収するのか、どのような生理機能に関わるのか、など多くが謎でした。

 

本研究グループは、この解析が遅れているRh7の性質を調べました。試行錯誤を行い人工的にタンパク質を作製したところ、紫外光感受性のオプシンであることが分かりました。さらに、Rh7は紫外光を中心に青色光まで幅広い範囲の光波長を受容できることが確認できました。このような広範囲の光波長を1つでカバーできるオプシンはこれまでに知られていません。眼で働く視覚のオプシンの場合、このような広範囲の光波長をカバーするためには、紫外光と青色光それぞれに感受性のあるオプシン2種類が必要です。Rh7は1つで視覚のオプシン2つの範囲をカバーし、一人二役の働きをすると言えます。Rh7の研究は今年に入って大きな進展があり、脳内で時刻の認識のために働いていることが明らかにされました。つまり、ショウジョウバエは、紫外光を中心に青色光までの広範囲の光波長を脳で受容することにより、「今、何時?」を確認していると言えます。

図:ショウジョウバエの眼と脳の光センサー
視覚の光センサー(左)と脳内の光センサーRh7(右)とを比較すると、Rh7は紫外光を中心に紫色光・青色光も受容できるセンサーであることが分かる。
 

詳細は、以下のページをご覧ください。