-Cuナノ粒子の電子状態の観測 -合金の複合的な電子状態が寄与することを示唆-

北川宏 本研究科化学専攻教授、坂田修身 国立研究開発法人物質・材料研究機構グループリーダー、永岡勝俊 大分大学准教授らの研究グループは、排ガス浄化触媒活性を持つロジウム(Rh)と銅(Cu)からなる合金ナノ粒子において、Rh組成(ここでは原子数比)が変わっても同等の触媒活性を示すナノ粒子の電子状態を初めて明らかにしました。その結果、ナノ粒子の触媒活性と電子状態が簡単に関係づけられないことが判明しました。

 

本研究成果は、2017年1月25日午後7時に英国の科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

 同じ触媒活性を持つ2種類の合金ナノ粒子の酸化数が異なるという今回の研究成果は、触媒などの新機能性物質の創製において、より詳細な電子状態の評価が重要であることを示しています。今後、触媒活性と電子状態の関係について理論的な検討も進める予定です。さらに、新機能性物質の創製をますます加速させるため、合金ナノ粒子以外のさまざまな物質についても、電子構造や原子配列に関するデータを提供し、データを活用した情報統合型物質・材料研究(マテリアルズ・インフォマティクス)の基盤を形成していきます。

概要

自動車などの排ガス浄化触媒として期待される希少元素Rhですが、コスト低減のため使用量を削減することが求められています。これまで、バルク(ナノメートルスケールに比べてはるかに大きいサイズを持つ立体的な結晶や固体)では合金になり得ないRhとCuの合金ナノ粒子が作製され、この合金ナノ粒子が、Rh組成を減らしてもRh単体のナノ粒子と同等に、CO、NOxなどの排ガス成分を酸化する触媒活性を持つことが確かめられています。組成が異なれば電子状態が変化すると考えられる一方、触媒活性は材料の電子状態と密接に関係するとも考えられるため、このRh-Cu合金ナノ粒子系の電子状態には興味が持たれていましたが、実験の困難さからこれまで調べられておらず未解明でした。

 

そこで本研究グループは、国立研究開発法人理化学研究所が所有する大型放射光施設(SPring-8)にある物質・材料研究機構のビームラインを用いて光電子分光測定を行いました。約8割がRhである高Rh組成のタイプと、約半分がRhで残りがCuである二つのタイプの合金ナノ粒子の電子状態(原子の荷電状態を示す酸化数)を調べました。

 

その結果、Rh組成が多いタイプでは、Rhナノ粒子と類似の酸化状態が観測されましたが、Cu組成が約半分であるタイプではRhナノ粒子で観測されたRhの酸化状態を持つ割合が減り、Cuの酸化成分が増大することが観測されました。

図:高輝度放射光の高分解能硬X線光電子分光測定のスペクトル分析の結果
(a)、(b)はRh 3dの内殻スペクトル。(c)、(d)はCu 2pの内殻スペクトル
 

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