齊藤 颯

 

原子や分子の大きさはおよそ0.1 から1 ナノメートル(ナノは10 のマイナス9 乗)と非常に小さいので、可視光を使った顕微鏡でその姿を目にすることはできません。可視光よりも細かなものが見える電子顕微鏡を用いても、原子1 つ1つを区別できるほどの精細な画像は得られません。このように分子の形を映し見ることは困難でも、近年は分子を構成する原子の表面を「なぞる」ことで分子の姿を捉えることができるようになってきました。

 

それは、原子間力顕微鏡と呼ばれる装置です。板から極めて細い針が突き出た画鋲のような部品で試料の表面をなぞり、凹凸を指で感じて読み取る点字のような仕組みで試料を調べます。針の先端は、物質の性質や距離に応じて、物質との間に引力や反発力を受けます。この時、針がついている板がどの程度たわんだかを計測することで、試料の表面の性質や形を調べるのです。

 

この手法は、真空が必要な電子顕微鏡とは異なり試料の種類や状態を選ばないので、金属からタンパク質まで幅広い試料を対象として利用することができます。今では先端が原子1 個分の細さしかない針も作られており、原子1 つ1つを区別することが十分可能になりました。これによって、分子を構成している電子の分布まで可視化することができるようになっています。

 

原子間力顕微鏡がさらに進歩することで、物質を原子スケールで目にすることが当たり前になるのかも知れません。