小林 卓也

 

今年7 月、チューリッヒ工科大学のGianvito Vile 氏らは触媒に用いられる希少な金属の量を飛躍的に少なくすませる技術を発表しました。触媒とは、それ自身は変化しないまま、接触する周りの物質の化学反応を促進する物質です。例えば今回Vile 氏らが対象としたパラジウムという金属は、自動車の排ガス浄化装置などに使われていて、有毒な一酸化炭素、炭化水素を、二酸化炭素と水に変化させます。

 

通常、パラジウム触媒はナノ粒子と呼ばれる状態で利用されています。ナノ粒子の大きさは、髪の毛の太さの1 万分の1 程度という小ささです。しかしこのナノ粒子にも数万個もの原子が含まれていて、表面にある原子は数パーセント程度と言われています。触媒反応は触媒の表面でのみ起こるため、内側の大部分の原子はムダになってしまいます。したがって、触媒粒子を更に小さく、できれば単一の原子がばらばらにある状態にまですることができれば、反応効率を高め、触媒の量を少なく済ますことができます。

 

金属を原子の状態にすることは技術的に可能でした。しかし金属原子は単独では不安定で、特に原子の動きが活発になる高温条件下では、すぐに周囲の原子同士で集合してしまいます。Vile 氏らは窒化炭素(C3N4)という化合物にパラジウム原子を単独の状態で埋め込むことで、この難点を解決しました。窒化炭素は、パラジウム原子1 個のみが入ることのできる隙間を持った構造をしています。この隙間にパラジウム原子がしっかりと捕えられることで、高温でも単独の状態を保ち、従来より少量のパラジウムで、より効率的な触媒反応を維持することができるのです。