橋谷 文貴

 

カリフォルニア工科大学のPeter B Dervan 教授はDNA に結合できる化学物質、ピロールイミダゾールポリアミド(PIP)の生みの親です。PIP が標的とするDNAの配列は自由に設定することが可能で、結合したDNA の働きに干渉することができます。

 

今、PIP は主に医療の分野で注目を集めています。私達の体の設計図、DNA には「いつ、どこで、どのようなタンパク質を生産するのか」が記載されています。こういった情報は親から子供へと伝達されていくため遺伝子と呼ばれます。遺伝子は私達が生命活動を維持していく上で不可欠な情報ですが、病気の発生にも関わっており、癌の原因となる癌遺伝子というものもあります。DNA と強固に結合する薬剤を投与することで遺伝子の無効化は可能で、抗癌剤と呼ばれる薬剤は癌遺伝子を無効化して癌の成長を阻害します。しかし同時に生命活動の維持に必要な遺伝子も無効化してしまうため、重篤な副作用が現れてしまうのです。PIP はこの問題点を克服しており、特定の癌遺伝子のみを無効化する副作用の少ない抗癌剤としての利用が期待されています。

 

PIP のルーツはDistamycin A と呼ばれる化学物質です。Distamycin A は無差別的にDNA に結合する特性を持っており、ピロールという物質が連結した構造をしています。Dervan 教授はDistamycin A の一部のピロールを変更することで、結合する配列を制限できるのではないかと考えました。試行錯誤の結果、イミダゾールという物質に適宜変更することで標的となる配列を細かく指定できることを発見しました。これを利用して開発されたのが特定のDNA 配列に結合できる化学物質、PIP です。