名誉教授随想『命と向き合うということ』

名誉教授随想『命と向き合うということ』

元化学専攻所属・名誉教授 馬場 正昭

 
 


  悲しいことではあるが、病気やケガは不条理な試練である。いざ現実に起こってしまうと、不安や失望が先に立ち、冷静に対応することは難しいが、実は大きな試練ほど我々に多くのことを諭してくれる。これまで自分に対してきちんと向き合って生きてきたのか、本当に命を大切にしてきたのか。私が言う命とは、物質で構成されている我々の身体のことだけを言っているのではない。充実した日常生活を送るのも命を大切にするということである。

 私は京都大学理学部に入学して量子化学に興味を抱き、大学の教員として研究を続けた。精密レーザー分子分光とab initio計算によって、化学結合の本質を深く理解するという極めて基礎的なテーマなので、すぐに社会の役に立つというものではないが、複雑な高分解能スペクトルを取って、それが解けたときの喜びは言葉にできないほどで、私はずっとこれが正しい生き方だと思っていた。

 私は京都大学理学部に入学して量子化学に興味を抱き、大学の教員として研究を続けた。精密レーザー分子分光とab initio計算によって、化学結合の本質を深く理解するという極めて基礎的なテーマなので、すぐに社会の役に立つというものではないが、複雑な高分解能スペクトルを取って、それが解けたときの喜びは言葉にできないほどで、私はずっとこれが正しい生き方だと思っていた。

 今は仲良しの学生たちと間近に接することができなくて、LINEやZOOMで言葉を交わしている。大学生活でも、オンライン授業とかオンライン研究とか。しばらくは仕方がないが、私にはこれが新しい日常だとは少しも思えない。人が成長し、豊かな人生を送るためには、多くの人との密接な触れ合いは無くてはならないものだと信じている。