元化学専攻所属・名誉教授 丸岡啓二

 
 

私の人生は、少なからず京都と関わっているようである。京都大学工学部工業化学科を卒業して、米国でPh.D.を取得した後、名古屋大学工学部応用化学科で助手として研究者のスタートを切った。1995年に北海道大学理学研究科に移動したが、元々、工学研究科で基礎研究をやっていたこともあり、理学研究科に移ってもほとんど違和感が無かった。その後、2000年に京都大学理学研究科化学専攻有機合成化学研究室の教授として赴任して以来、退官までの19年間があっという間に過ぎ去ってしまった。教育・研究に明け暮れていたこともあって、京都の町の散策や京料理を存分に楽しむ機会を逸していたように思う。後1年で教授在任期間が20年間になったのにと少し残念な思いもあったが、幸運にも薬学研究科で新たな研究室を頂けることになり、何とか通算20年に到達することができそうである。

 

さて、この4月から京都大学薬学研究科有機触媒化学研究室の特任教授としての生活が始まった。実際には、新しい研究室を立ち上げるため、今年の1月くらいからドラフトや実験台、機器類や試薬類の引越準備があったため、退官に伴う事務手続きや教授室の片付けや最終講義の準備等を平行して行うことになり、多忙の数か月となった。幸い、京都大学内の移動ということもあり、引越作業も比較的やりやすかった。現役の教授は、大学院生や学部4年生の教育や研究に加え、所属する組織の会議など、研究以外に実に多くの時間が割かれてしまう。この4月から特任教授となると、学生の教育や会議等から開放されることになり、研究時間が大幅に増えたことが有り難かった。

 

理学研究科では、環境調和型の有機合成を目指した有機触媒化学の研究を始め、現在も「高性能有機触媒プロジェクト」を続けている。この過程で、市販の安価な光学活性ビナフトールから独自の発想に基づいてスピロ型キラル相間移動触媒としての「丸岡触媒®」を考案することができた。その後、さらに触媒の高活性化の検討を重ね、「簡素化丸岡触媒®」を開発し、長瀬産業(株)やキシダ化学(株)によって、医薬品合成に有用な非天然型アミノ酸の大量合成の事業化を実現できた。今回、薬学研究科に来ることができたので、今後は非天然型アミノ酸の大量合成技術を活かして、新たなペプチド医薬の研究を楽しもうと考えている。