元生物科学専攻(生物物理学系)所属・名誉教授 七田 芳則

 
 

この3月に大学院学生の時からお世話になってきた京都大学を退職した。40数年間の長い年月である。いまでも、初めて京都大学に来て、さあ研究(実験)を始めようと思っていた時の気持ちを思い出すことがある。

一方、退職してさてこれからどうしようかと思う時、置かれている状況はかなり違うが、意外にも学生時代と同じようなことをまだ考えている気がする。それは、これまでずっと理学研究科の研究室で基礎研究に従事してきたからであろう。実際、研究室は教授を含めた数人のスタッフと大学院生・学生の集団であり、時には大学院生・学生の数が圧倒的に多くなる。

したがって、スタッフになってからも、自分よりも若い元気な学生に取り囲まれ、ほとんどの時間は得られた新しい実験結果を学生と同じ目線で考えている。知識・経験は増えていくが、新しい実験を考えるわくわく感は学生時代と変わらない。基礎知識よりもやる気がものを言う分子レベルでの生物学の勃興期に身を置いてきたからかも知れない。

京大では50年後、100年後に社会に役立つ研究をすればよいという研究者もいる。40年以上の研究生活を続けてきた私には50年後はすぐ近くである。これまでに得た研究成果がどのように役に立つのか、どれだけ社会に発信できたかを考えている。